レーダーの観測原理
Key word
- レーダー方程式,後方散乱断面積
- ブライトバンド
- X-MPレーダー
はじめに
レーダーの観測原理と特徴ついて数式を交えながらまとめていきます.
レーダーの観測原理
レーダー方程式
$ \bar{Pr} = \frac{\pi^3 P_t g^2 \theta^2 c}{2^{10} (\log 2)} \left|\frac{\epsilon-1}{\epsilon+2}\right|^2 \frac{l^2 \tau}{\lambda^2 r^2} Z$
主要な項の解説
変数 | 説明 |
---|---|
$ \bar{Pr} $ | 平均受信電力.被写体の後方散乱による電磁波を受信します. |
$ Z $ | 被写体のレーダー反射因子.同じ形状,大きさの水と氷では水の方が5倍後方散乱しやすい. |
$ l $ | 大気による電磁波が減衰.気象予報士試験でもよく出題されます. |
$ r $ | 被写体との距離.式から距離の2乗に反比例して平均受信電力が変化します. |
$ \lambda $ | 電磁波の波長.式から波長の2乗に反比例して平均受信電力が変化するので波長が短い方が後方散乱されやすいことを意味します.あとで出てきますが波長が短い場合は目的の降水粒子で散乱したあとアンテナに帰ってくる間にある降水粒子で散乱されやすくなるので,観測範囲は狭くなります. |
$ \tau $ | パルス幅.平均受信電力はとは比例関係にありますがパルス幅を大きくすると降水粒子の距離の分解能が下がるため適切なパルス幅を決める必要があります. |
注意
- 減衰について: レーダー方程式では空気分子による電磁波の減衰は考慮されているものの目的の降水粒子以外の降水粒子による散乱の影響は考慮されていません.
電磁波と降水粒子のスケール
レイリー散乱の近似により後方散乱断面積の式が導かれる.
$ \sigma_b = \frac{\pi^5}{\lambda^4}\left|\frac{\epsilon-1}{\epsilon+2}\right|^2 D^6 $
解説
- $ \sigma_b $: 後方散乱断面積.$ \lambda $: 電磁波の波長.$ D $: 降水粒子の直径.
- 上の近似式が成り立つのは降水粒子の直径がレーダーの波長より十分小さい場合です.気象レーダーの波長は3cm~10cmなのでひょうや大きな雪などに対しては上の近似は誤差が大きくなります.
- また,式から降水粒子の直径$ D $の6乗に比例して後方散乱断面積が大きくなるので空気中の降水粒子の体積の合計が同じなら,より粒子数が少なく大きな直径のある粒子にまとまっていた方が後方散乱断面積が大きく平均受信電力も大きくなります.
レーダー観測の特徴
系統的なエコー
エコー | 説明 |
---|---|
グランドエコー | 地形によって電磁波が後方散乱することによるエコーです.いつも同じ場所で観測されるので概ね除去できます. |
シークラッター | 強風時に海上の波しぶきによるエコーです.時間と共に位置が変化するので除去できません. |
エンゼルエコー | 大気の屈折率の乱れによるエコーです.空気密度の不連続性が原因です.レーダーの動径方向に沿った列上になります. |
ブライトバンド | 雪が0°C以上の層を加工する過程で表面が融けて後方散乱がしやすくなりエコーが強く観測されることがあります.層状性の雲の方がよく見られます. |
注意点
- 雨と雪: 気象レーダーの観測では降水の種類(雨や雪)を判断することはできないので下層や地上の気温で判断します.
- 観測範囲: レーダの設置場所が高いほど遠くまで探知することができるが地球の曲率のために限界があります.
- 観測高度: また,高度2kmを観測しているのでより高度が地上の降水と一致しないことがあります.下層の風が強いとエコーと実際の降水位置がずれることがあります.
X-MPレーダー
これまでみてきた気象レーダーは電磁波が降水粒子に当たった時の後方散乱を受信して電力を解析する方法をとっていました.この方法では降水粒子の数密度と大きさの両方が電磁波の受信強度に影響を与えるので降水の性状によって解析のパラメータを変えるなどの対応が必要でした. そこでX-MP(Xバンドマルチパラメータ)レーダーが利用されます.これは上記で説明した気象レーダーより多くの要素を解析して総合的に降水強度を判断する方法です. 降水粒子の大きさによる形状の変化を利用しています.
降水粒子の大きさと形状
降水粒子は大きくなるほど空気抵抗の影響で扁平になります.また,電磁波を降水粒子に当てた時の後方散乱強度は粒子の直径に比例します. このため,水平方向に偏った振動をしている電磁波を
解析手法
X-MP気象レーダーは水平偏波と垂直偏波の2種類の電磁波を降水粒子に向けて射出し後方散乱の受信電力を解析します. 受信した2種類の電磁波それぞれの受診電力,受信電力比,位相差を解析して総合的に降水強度を判断します.
利点
- X-MPレーダーは降水粒子が多く,大きい場合つまり大雨の場合に精度良く観測できます.
- 受信電力の位相差を解析する手法なので空気分子による電磁波の減衰の影響も受けにくいです.
まとめ
- レーダー観測の背景にある原理を説明しました.
- レーダー観測は降水粒子による電磁波の降水散乱を利用しています.
- 気象レーダーによるエコーは観測の特性を考慮した上で解析する必要があります.
- より高度な解析を行うX-MPレーダーはよりRobustな観測を行うことができます.
参考
- らくらく突破気象予報士簡単合格テキスト 学科専門知識編 Chapter3